沈黙が、私を支える。


by aoinote101

秋明菊

秋になりました

丸くて綺麗な月を見上げて思いました

庭に秋明菊のつぼみがふくらんでいます


私の先生の思い出の花です




京都の貴船に咲くことから

貴船菊とも呼ばれています


私に華道と茶道を教えてくださった先生は

今はこの世にいらっしゃいません


先生は親の決めた相手と結婚したものの

初夜に逃げ帰ったという人です

当時、近所では大騒ぎとなり

周囲の好奇の目にさらされたことでしょう

その後

生涯独身を貫かれました



先生は美しい人でした

私が先生のところに通い始めたとき、

既に60近かったはずですが

美しい人でした


たぶん

私の知る限り

もっとも美しい女性だったと思います


先生が亡くなったと母から聞いたとき

私は庭に出て泣きました

月夜でした


私は先生がずっと恋していると思っていました

先生のお心は何も知りません

でも、

時々、お花を生けていると

様々な花の思い出を話してくださいます

どこに行った時、この花が咲いていて

美しかったとか

この花は、どういう場所に咲いていて可憐だったとか

先生の思い出の中の

様々な景色の中に

先生の幸福があるような気がしていました

そして

それを見ていたのは

先生お一人ではなかったような気がしていました

たったひとりで孤独だったはずなのに

先生は「若い頃見ていた幸福な景色」を

大切に抱きしめているような人でした

先生の人生について

何もお聞きしたことはありません


でも、お花のお稽古のとき

私の花材の中に

くねくねと曲がった枝振りの物がありました

どうして生けようかと思案していると

先生は言われました

「面白い枝ぶりですね」と

なにか障害があって、まっすぐに伸びることができなかったのでしょうけど

それでも光を求め

生きようと苦しみ、もがいた、たくましい姿…



生きるとは

そういうものなのだと

なんとなく感じました

そして

人が生きるのには

それほど沢山のものは必要ないのではないかと思いました


先生にお聞きしたかったことは沢山あるのに

先生の生き方は

それだけで

全てを教えてくださっていたように思います

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先生はある時、お庭で育てていらした秋明菊を株分けしてくださいました

草花の世話が苦手で

何でも枯らせてしまう私は「育てられません」とお断りしたのに

先生はおっしゃいました

「風に吹かれると、ふらふらして弱そうやけど

雑草みたいに強いから大丈夫なんですよ」

そして

先生がいらっしゃらなくなった今も

私の庭に毎年花が咲くのです

それは決まって月の美しい頃に
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by aoinote101 | 2007-09-27 22:07 | My favorite thing